原子力時代の名画に触れる--ダリ展

自販機部門の船木です。

「ダダ」「ブルトン」と聞いて、初代ウルトラマンの怪獣の名前だと思ってはいけません(笑)。そもそも、これらウルトラマンの怪獣の名前にしたところで、そもそも20世紀前半に西洋で起こったフォーヴィスム、キュビスム、ダダイスム、シュルレアリズムといった一連の芸術運動に由来するものでした。ここのブログでも先日お二人ほど紹介されておられましたが、そのシュルレアリズムの巨匠であるスペインの芸術家サルバドール・ダリがついに10年ぶりに日本にやってきました。もう既にこの7月1日から9月4日まで京都市美術館で開催されています。

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京都市美術館

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京都市美術館

 

ダリ展

 

『記憶の固執』がない!?

ダリと言えば、みなさんも学校の美術の教科書でお馴染みの、時計がハムのようにぐにゃっと曲がって枝にかかっているような作品の『記憶の固執』があまりにも有名ですが、実は今回その作品が展示されていません。ガビーン!!!「え!なんでよ~!」とか言わないで下さいませ。今回の回顧展は、なんと国内では過去最大規模となるもので、スペイン、アメリカのダリ・コレクションの全面的な協力により、なんと約200点もの作品が一堂に集められています。今回は絵画のみならず初期から晩年におよぶ数々の作品を鑑賞することができます。実は『記憶の固執』も絵画ではなく晩年の装飾品が展示されています。

記憶の固執

サルバドール・ダリ『記憶の固執』(1931)

記憶の固執の分解

サルバドール・ダリ『記憶の固執の分解』(1952-1954)

 

ダリの生きた時代背景

さて、サルバドール・ダリ(1904~1989)が生きた時代というのは、日本で言えば日露戦争の年から昭和天皇崩御の年まで、世界的には西洋だけでなく東洋なども巻き込んだ二度にわたる大規模な戦争である第一次世界大戦および第二次世界大戦から、核兵器を機軸をした「冷たい戦争」そして共産主義世界の崩壊にまで至る、まさに激動の時代でした。人々の何か悶々とした得体の知れない不可解な無意識的な病巣といった時代背景を反映してか、ダリの作品たちにはそういったものを題材としたものが数多く見られるように思います。

 

また、ちょうどこの頃は、科学も物理学において相対論と量子論という、物の見方を大きく変えるような新たな2本の支柱を形成しようとしていた時期でもあり、芸術運動でもそうしたことが反映されてか様々な手法的な試みが行われていた時期だったと言えるかもしれません。実際、ダリは物理学の成果とも言える光速度や素粒子といった素材を、作品の中にも巧みに取り込んでいます。

 

原子力時代の芸術

今回のダリ展の作品群の中では、特に、1945年から1950年代に描かれた「原子力時代の芸術」と言われる作品群が興味深いです。ダリは、1945年の広島・長崎への原爆投下に非常に大きな衝撃を受け、『ウラニウムと原子による憂鬱な牧歌』というとても重厚な作品を仕上げています。また、ラファエロの聖母(マドンナ)をモチーフとした『ラファエロの聖母の最高速度』といった、まるで人間の無意識下でしたたかに科学と宗教の統合でも目論んでいるかのような作品もあります。この両者を比べると、ある意味、冷ややかで物々しくすべてを奪い去っていくような、原子力が持つ負の側面と、一方で、聖母の放つ優しい光が巧妙に素粒子分解され、動的なエネルギー量子として旋回しながらより軽やかで神秘的な幾何学形態へと、身ぐるみを剥がされていくような、素粒子物理が目指す本来的な方向性である正の側面の両面を鑑賞することができるのではないでしょうか。

 

というわけで、京都市美術館で7月1日から9月4日まで開催されているダリ展がお薦めです。また、京都文化博物館では、ダリの初期から円熟期、そして晩年までの200点以上の版画作品を展示した特別展『ダリ版画展 --もうひとつの顔--』が同じ時期の7月9日から9月4日まで4Fにて開催されておりますので、併せてご覧になってはいかがでしょうか。

 

京都文化博物館・特別展『ダリ版画展--もうひとつの顔--』

 

さあ、みなさんもダリのちょっと不可思議な世界を覗いてみませんか?

 

というわけで、滋賀県から京都市美術館にお出かけになる方は、JR京都またはJR山科で京都市営地下鉄に乗り換えてから東山で下車されると便利です。JRや京都市営地下鉄のチケットは、是非お近くのチケットライフの店舗および自動販売機にて格安のチケットをお求めください。また、ダリ展のチケットも店舗で格安で販売しております。各店のスタッフ一同、みなさんのご利用をお待ちしております。

 

わたしは存在するために、そして自我の全エネルギーを統合するために、絵を描くのだ。 --サルバドール・ダリ