自販機部門の船木です。
みなさんは、大阪府高槻市にあるJT生命誌研究館をご存知ですか? 博物館・科学館の類としてはそれほど派手ではなく、むしろ地味な感じですらあるこの施設は、一昨年20周年を迎え、改めて注目したい観光スポットです。
JT生命誌研究館(出展:ウィキペディア「生命誌研究館」)
生命誌研究館(せいめいしけんきゅうかん)は、大阪府高槻市にある生命科学に関連した展示と研究を行っている博物館である。1993年設立。JTによって運営される企業博物館である。学芸員だけでなく一線の研究者も常駐しており、各人の研究を行っている点でユニークである。また、大阪大学と連携し、大学院生も在籍している。館長は1993年から2001年度まで岡田節人(後に顧問)。2002年度からは生物学者の中村桂子が務める。
ひとことで言ってしまえば、JTが運営する生命科学関連の研究・展示施設ですが、ここでは「生命誌」という重要なキーワードが出て来ます。「生命誌」って何?というのが気になるところですが、まずは、私たちがよく耳にする「DNA」などについて簡単にふれておきましょう。
☆DNAってどこにある?
昔から「カエルの子はカエル」と言われるように、ふつうイヌの子どもがネコになったり、クジラの子どもがサメになったりはしません。動物なら雄と雌から新しい子どもが生まれ、植物ならおしべとめしべから新しい種子ができたりしますが、親と同じ種の動物や植物が生まれるのは、ざっくりと簡単に言えば、その生物のからだの設計図に当たるものが「DNA」と呼ばれる物質にきちんと記録されているからです。では、その「DNA」は、生物のからだのどこに保存されているかと言いますと、細胞の中の核質の中にあります。
もう少しだけ詳しく説明しますと、生物のからだはすべて細胞からできていて、細胞はその内部構造から原核細胞と真核細胞に分けられます。原核細胞とは古細菌(アーキア)と真正細菌(バクテリア)と呼ばれる微生物に見られる細胞で、それ以外の生物のからだは真核細胞からできています。真核細胞は核と細胞質からでき、細胞質は電子顕微鏡で見ると様々な構造物が見られます。これらの構造物は細胞小器官(オルガネラ)と呼ばれ、生命エネルギーと呼ばれるATP(アデノシン三リン酸)を合成するミトコンドリアもその一つです。また、核は細胞質とは核膜で区切られ、核小体(仁)と呼ばれる中心があり、細胞分裂の際に染色体に移行するクロマチン(染色質)と呼ばれる構造体があります。クロマチンの最も基本的な構造はヌクレオソームと呼ばれる構造で、4種のヒストンと呼ばれるタンパク質が2つずつ集まってヒストン8量体を形成し、146塩基対の2重鎖DNAを左巻きに巻きつけています。このヌクレオソームが凝集して直径30 nmの繊維を形成したものがクロマチンだと考えられています。つまり、細胞分裂のときに重要な役割を果たす染色体のもとは、細胞の中の核の内部にあり、DNAとヒストンの複合体になっています。染色体は、父親・母親それぞれから生殖細胞を介して受け取り、性染色体であるX,Y染色体を含めて23対あります。
☆DNAって何?
一般にDNAというとき、この核の内部にあるクロマチンを構成する核DNAを指しますが、細胞質の内部の細胞小器官の一つであるミトコンドリアにもDNAは存在します。人間の核DNAは二重螺旋構造をなしますが、ミトコンドリアDNAは環状構造をなします。DNAとはデオキシリボ核酸の略称で、RNA(リボ核酸)とともに核酸の一種です。DNAは、デオキシリボースと呼ばれる五炭糖と、4種類の核酸塩基、リン酸から構成されます。五炭糖に核酸塩基が結合したものをヌクレオシド、さらにこれらにリン酸が結合したものをヌクレオチドと言い、DNAやRNAの最小単位になっています。このヌクレオチドが100個以上集まってできるポリヌクレオチドがDNA1本の構造をなし、二重鎖DNAは2本のポリヌクレオチド鎖が反平行になって、右巻き螺旋を形成しています。
DNAを構成する核酸塩基は、アデニン(A)・グアニン(G)・チミン(T)・シトシン(C)の4種類からなり、2本のポリヌクレオチド鎖において、AはTと、GはCと結びつくことになっています。したがって、片方の鎖のDNAの核酸塩基の配列がわかれば、他方の鎖のDNAの核酸塩基の配列がわかるというわけです。DNAの構造は、ある意味、この核酸塩基の配列で決まってくるということになります。
☆DNAと遺伝子とゲノムの違い
ここで、「DNA」と同じような感じで使われる言葉として、「遺伝子」「ゲノム」がありますので、簡単に紹介しておきます。DNAのうち、生物のからだを作る設計図となる情報、いわゆる遺伝情報を持った部分を「遺伝子」と呼びます。つまり、DNAには遺伝子でない部分も含まれているわけですが、それらも遺伝子の調整を行ったりする機能なども持っており、遺伝情報としてはこれらも含めた全体を考える必要があり、ある生物が持っている遺伝情報全体を「ゲノム」と呼びます。改めて大雑把にまとめておきますと、遺伝子は遺伝情報単位、ゲノムは遺伝情報総体、DNAはそれらを収めている物質というところでしょうか。
☆生物のからだの設計図・DNA
さて、このDNAレベルの構造や機能を見ていくと、これらはとても精密で、決して間違いなど起こさないかのような機械のように思えてしまうのですが、この精密な機械のようなものが、まさしく生物というある種多様なものを生み出しているという不思議さがあります。地球上の生物はすべてこのDNAにからだの設計図を持っており、そうでない仕組みを持っている生物はこの世に存在しませんが、同時に、同じ仕組みを持ちながら、あれほど多種多様なからだを形成しています。つまり、DNAレベルで言えば、ほんのわずかな違いで、全然別の種の生物になるわけです。言い換えれば、この共通性と多様性を併せ持っているのがDNAなのです。
DNAが種ごとの生物のからだの形成に深く関わっていることから、ダーウィンの『種の起源』によって有名になった進化論も、当初の「自然選択(自然淘汰)」をより科学的に説明するために、次第に「遺伝子の突然変異」というものが加えられるのが一般的になりました。ただし、生物が生存環境に適当した遺伝子を自ら意図的に選択できるわけではなく、DNAレベルでの解析が進むに連れて、生物の進化の仕組みは、DNAをめぐるシステムとの関係性の中でより精緻化して語られるようになってきました。同じような特徴を持ち、同じような生活形態を行うもの同士を同じ種として分類されていたものも、DNAレベルでは全く異なる種であることが判明して、再分類されたような例もあります。まさにDNAレベルでの共通性と多様性に関する興味深い発見は、現在も日進月歩で起こっているようです。
☆生命科学じゃなく生命誌としてのゲノム
そうしたDNAレベルでの共通性と多様性に注目して、下手をすると無機質な機械論・技術論に思われがちな生命科学を、これまで、そして、これから、生まれ、進化していく地球全体の生物が織りなす壮大な歴史絵巻を見出そうとするのが「生命誌」(biohistory)という考え方のようです。それは、人間自身が自分自身の細胞に含まれているゲノムの中に、まるで異なる生物同士が種や門や界を超えて有機的に紡いでいる織物のような生命誌の香りを嗅ぎ取ろうとする試みとも言えるのかもしれません。それは、まるで精密な分子機械のような構造物としてのDNAを見る視点というよりは、生命現象の実質的総体としてのゲノムを見る視点から見えてくる世界観とも言えるでしょう。
そのように、生命科学を「生命誌」という観点で捉えて扱っている研究・展示施設が大阪府高槻市にある「生命誌研究館」です。
JR京都線高槻駅より徒歩で商店街を抜けて約10分というとても便利な場所にありながら、施設の敷地内は木々に囲まれ、ちょっとした異世界・異空間を醸し出しています。街中の雑踏および喧騒に少し疲れた人にはうってつけの癒しの空間になるかもしれません。
というわけで、滋賀県からJT生命誌研究館のある高槻にお出かけになる方は、是非お近くのチケットライフの店舗にて格安のチケットをお求めください。特に、土・日・祝日は時間帯に関係なく使える、京都から高槻までの昼特切符が便利です。京都から高槻までは、新快速で12分ほどです。各店のスタッフ一同、みなさんのご利用をお待ちしております。