株主優待のための基礎用語〜「ROE」と「ROA」


企業の分析などの際に、しばしば耳にするのが「ROE」という言葉です。「最近はROEが重視される」などという使われ方をしていますが、いったいこれはどういう意味なのでしょうか。
 
また「ROE」と似た言葉で「ROA」という言葉もあります。今回はこのふたつの言葉「ROE」と「ROA」について説明します。(今回の記事はこちらと合わせて読むとわかりやすいと思います。)

1.ROEとは

ある企業の株を買う行為は、自分の大事なお金をその企業に託す行為です。

 

「有効に利用してこのお金を増やしてください」という動機に基づきます。
 
そうであるならば、預けたお金を効率よく使ってくれる企業の方がいいですよね。
 
実は「ROE」というのは「株主から預かったお金を企業がどれだけ有効活用しているか」を見ることのできる指標なのです。
 
「ROE= Return On Equity」を日本語に訳すと「自己資本利益率」となります。
 
株主から集めたお金なのに「自己資本」というのはなんだか変に感じるかもしれませんが、これは銀行などからの借入金などの「他人資本」ではないお金という意味で「自己」なわけです。
 
計算式で言うとこんなふうになります。
 

ROE(自己資本利益率)=最終利益/自己資本

 
ちなみに近年の欧州の企業の「ROE」は全体平均で15%ほど、米国の企業は20%を越えています。
 
それに対して日本企業の「ROE」は全体平均で5%ほどです。
 
日本企業はせっかく株主からお金を集めても、有効活用できていないというわけです。
 
もし手広く海外の株式まで手がけている資本家の方なら、日本の企業に魅力を感じないでしょうね。
 
これでは日本株に資金が集まらなくなってしまいます。
 
そんなわけで、経済産業省もこんなレポートを出して、「ROE」の重要性を企業に向けて訴えているわけです。
 

伊藤レポート「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト「最終報告書」
http://www.meti.go.jp/press/2014/08/20140806002/20140806002.html

2.「ROE」を上げる方法

ところで、実際に企業が「ROE」を上げるにはいろいろな方法があります。
 
まずは、計算式の分子に当たる「最終利益を増やすこと」ですよね。
 
その「最終利益を増やす方法」にもいろいろあります。
 
一番わかりやすいのは「売上高を上げること」なのですが、それ以外にも広告宣伝費や人件費などの「販売費」を削る方法や、原材料費などの「原価」を下げるなどの方法もあるわけです。
 
逆に、計算式の分母に当たる「自己資本を減らすこと」もROEを高める手段になります。
 
ちなみに上の式をもう少し細かく見るとこうなります。
 

ROE(自己資本利益率)=最終利益(配当金+内部留保)/自己資本(株主から集めたお金+内部留保の蓄積)

 
数学の得意な方なら、この計算式をじっと見ているだけで、「ROE」を増やす方法がいくつか思いつくはずです。
 
その1・配当を増やす(=内部留保を減らす)
 
分子の数値は変わりませんが、分母は減ります。
 
内部留保されたお金は企業の中に毎年蓄積されてたまっていくのですが、たまっていく金額を減らして、より多くの金額を株主に配当として吐き出せば、企業の「ROE」は上がります。
 
その2・株主から集めるお金を減らす
 
これは具体的に言うと「自社株買い」が該当します。
 
市場に出回っている株を投資家の手から企業側に取り戻すことで、「ROE」の計算式の分母が減るわけです。
 
さて、投資をされている方なら、ここまで来て思い当たる節がないでしょうか。
 
そう、最近「増配&自社株買い」を発表する企業が増えましたよね。
 
この動きは近年の「ROE重視」の潮流と無縁ではないのです。
 
そして実は、この「ROE重視」の傾向は「株主優待」とも無縁ではありません。
 
株主優待の費用を企業は「売上控除」「販売費」の名目で計上します。これは、いわば「コスト増」です。
 
これは単純に数値のみで言うなら、「ROE」の計算式でいう分子の方(最終利益)を減らすことに作用します。
 
優待によって株価が上がるというメリットはあるにせよ、一方で増配でも充分に株価上昇の材料になりますから、優待をやめて、その分の金額を配当に回した方が「ROE」という面では有利なのです。
 
例えば「三菱UFJフィナンシャルG(8306)」が優待の廃止を発表したように、今後は「優待廃止→増配」という方向で動いてくる企業が他にも出て来るかもしれませんね。

3.ROAとは

「ROE」と似た言葉で「ROA」という指標があります。
 
2017年6月9日に閣議決定された「未来投資戦略2017 Society 5.0の実現に向けて」というレポートの114ページにこのように書かれています。
 

>大企業(TOPIX500)のROAについて、2025年までに欧米企業に遜色のない水準を目指す。
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/pdf/seicho_senryaku/2017_all.pdf

 
ここ数年話題になってきた「ROE」に加えて、今後は「ROA」という指標も重要になりそうです。
 
「ROA= Return On Asset」を日本語に訳すと「総資産利益率」です。
 
企業が持っている資産を使って、どれくらいの利益を上げているのかを示す指標です。
 
こんな式で計算します。
 

ROA(総資産利益率)=最終利益/総資産

 
総資産ですから株によって調達したお金だけでなく、工場や、機械や、土地なども分母に入ってくるわけです。
 
こちらの「ROA」は上記の「ROE」と違って、「総資産」が分母にくるため、小手先の操作が難しい数値ですね。
 
それだけに「純然たる企業の稼ぐ力」を測る指標として有効であるとも言えます。
 
「ROA」を良くしたい場合に企業は、例えば、生産性の悪い工場を売却する、効率の良い事業形態を増やしていく、などの方法を取ることになります。
 
それを考慮すると「ROA」という指標は結構大事な指標な気がします。
 
「ROE」と「ROA」を、ともに上手に使いながら、企業の価値を判断していけると理想的な投資ができるのではないかと思います。
 
以上、今回は「ROE」と「ROA」について解説しました。皆様の充実の株主優待ライフのヒントとなれば幸いです。