自販機部門の船木です。
現在京都市美術館で開催中の「マグリット展」はもうご覧になりましたか?
今回は、「マグリット」についてご紹介します。
ルネ・マグリットとシュルレアリスム
マグリットとの出会い
ルネ・マグリット『複製禁止(エドワード・ジェームスの肖像)』(1937)
引用:wikipedia Not to be Reproduced
私が初めて出会ったマグリットの絵は、確か『複製禁止』(1937)と呼ばれる作品だったと思います。
鏡の前に一人の男性が立っていて、その鏡に映っている姿は、その男性の後ろ姿。
一瞬、あれ?っと目を疑います。ふつう人が鏡の前に立てば、正面の姿が左右反転して映ります。
ところが、この鏡は正面ではなく「後ろ姿が」「左右反転もせずに」そのまま映り込んでいます。
では、これは反転しない鏡なのかと言うと、右下に映る本の文字は反転していますから、「人だけが反転していない」ということになります。光学的にはあり得ない光景ですが、いろんな解釈ができそうな意味深な世界です。
ルネ・マグリットの作風
ルネ・マグリット(1898-1967)と言えば、ベルギー生まれの20世紀のシュルレアリスムの巨匠であり、その独特な作風は、私たちを非日常な視点の空間へといざなってくれます。
マグリットから影響を受けたアーティスト
あまりマグリットを知らない人間も、ちょっと違うところで、その摩訶不思議さに触れていたりします。
例えば、私の好きな音楽アーティストである佐野元春の初期のシングル・コレクション『No Damage』のジャケットに描かれていた空中に浮かぶ石は、マグリットの『ピレネーの城』(1959)という作品のパロディーだというのは結構有名な話です。
シュルレアリスムとは
シュルレアリスムとは、日本語で『超現実主義』と訳される芸術運動、あるいは芸術の一形態を一般的に指します。
ウィキペディアなどを読むと「現実を無視した世界を絵画や文学で描く芸術運動」と説明されています。
私も以前は「現実離れしたもの」だとか「非現実の世界」といった、幻想的でどこか現実から逃避したような印象を持っていました。
悪い言い方をすれば、「作者の主観で好き勝手に描いた非現実の世界」というイメージでした。
シュルレアリスムの時代背景
芸術運動としてのシュルレアリスムは、詩人のアンドレ・ブルトンを先導者として、1924年の『シュルレアリスム宣言』をもって始まり、その終わりは大体1945年頃だと言います。
まさに第一次世界大戦後から第二次世界大戦終結前後までのフランスを中心に、どこかへ逃げ出したくもなりそうな世相を背景に持っているわけですから、「非現実」的であるのもやむを得ないかな、とも思えます。
後世の解釈
ところが、巖谷國士氏の『シュルレアリスムとは何か』(ちくま学芸文庫、2002)を読むと、「現実逃避」的な「非現実」のイメージではなく、むしろ「現実を超えた現実」「強度のある現実」という意味での「超現実」を表現しているのだそうです。
確かに、マグリットやダリの作品を鑑賞していると、その作風が具象的な対象をモチーフとしているがゆえに、よりいっそう強い現実が、鑑賞者に向かって訴えかけてきそうでもあります。
シュルレアリスムの技法
シュルレアリスムの主な技法として、フロイト心理学の影響を強く受けたブルトンが拘った「自動記述」(オートマティスム)と、本来あるべき場所にないものを出会わせることで鑑賞者に違和感を生じさせる「デペイズマン」がありますが、マグリットはまさにシュルレアリスムをも超えてデペイズマンを極めた人であり、その独特な視点にハッとさせられます。
デペイズマンDépaysement(仏)
「人を異なった生活環境に置くこと」、転じて「居心地の悪さ、違和感;生活環境の変化、気分転換」を意味するフランス語。美術用語としては、あるものを本来あるコンテクストから別の場所へ移し、異和を生じさせるシュルレアリスムの方法概念を指す。
出典:現代美術用語辞典
※コンテクスト=文脈、背景、状況
目に見えないから逆に強調される。鑑賞者を引き込むマグリットの手法
さて、前述の『複製禁止』にしてもそうですが、マグリットの作品には「不在の表象」といったある種、哲学的なテーマが採り上げられたりします。
「不在の表象」と言うと、一見堅苦しい哲学用語のように感じますが、簡単に言えば「そこにないものをむしろ浮き彫りにする」といった感じでしょうか。
『複製禁止』の場合は、鏡に映るはずの「正面像」つまり「顔」がそこに描かれていないことが、むしろその存在を気にかけさせます。
私たちの日常でも、似たような現象があります。
例えば、自宅のドアの前で鍵を開けようとして、鞄をさぐってもその鍵が見つからなかったとき、普段あたりまえに使っていたその鍵の重要性とともに、そこに見つからない鍵の存在自体を浮き上がらせます。
あるいは、久しぶりに会った昔の友達の名前がなかなか思い出せないとき、むしろその友達とどういう時と場所で出会ったかとかいう記憶とともに、忘れていたその友達の存在自体も浮き上がらせます。
マグリットの場合は、その作品を通して、本来単なる鑑賞者だったはずの私たちを、むしろその作品の中に引きずり込みさえしてくるように思えます。
その意味で、デペイズマンという手法は、見る者と見られる物をただならぬ関係にしてくれるとても不思議な手法です。
いつも同じ時刻に起き、同じ列車に乗って、いつもの職場に向かい、決められた仕事をし、大体同じ時刻に仕事を終えて、帰宅する。
そんな変わらない日常だから、私たちは良くも悪くも安心して過ごせているわけですが、まるで回し車(ハムスター・ホイール)の中で必死に前へ進もうとして、実は無限ループから抜け出せないでいる、今の現実を克服して超えるきっかけはないものでしょうか。
それには、自分という同じ法の下の座標系ではなく、別の観点を持った他者の座標系へと座標変換ならぬデペイズマンしてみる必要があるのかもしれません。
というわけで、そんな人にお薦めなのが、今度京都市美術館で開催されるマグリット展です。
マグリットの本格的な大回顧展は、日本では13年ぶりであり、約130もの作品を、第1章から第5章まで5つのパートに分けて展示されます。東京の国立新美術館では3月25日から6月29日まで開催され、好評を博しました。関西では、いよいよ京都市美術館にて7月11日(土)から10月12日(月・祝)まで開催されます。
マグリット展(京都展)(http://magritte2015.jp/kyoto/outline.html)
目に見えないものは、私たちの眼差しから隠れていることができない。
--ルネ・マグリット
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さあ、みなさんもマグリットが描く不思議な世界に触れてみませんか?